Thief: Deadly Shadows

Stone Market Plaza

先日、Elder ScrollsIV: Oblivionを買ったので、ついでにグラフィックボードを新調した。今度はGeForce7800GTXである。これでOblivionも快適に……と思ったが、真っ先に試してみたくなったのは、これまで重すぎてまともにプレイできなかったゲームの数々であった。その第一弾がThief:Deadly Shadowsである。

Thief三部作、完結!

私は、Thiefが完結するのをずっと楽しみにしていた。主人公のギャレット*1は、この街ではちょっと名の知れた盗賊である。銀行だろうが、宿屋だろうが、離れ小島の別荘だろうが、あらゆるところに侵入しては金目のものを徹底的に盗みまくる。それにも関わらず、というよりも、それゆえに街の衛兵には目を付けられていて、うっかり表も歩けない。ぼろアパートの隅っこに住む、日の当たらない世界の住人であり、危ない仕事を請け負っているうちに、いつのまにか陰謀に巻き込まれる運命を背負った悲しい男である。
物語の舞台となる街には、一般市民と衛兵を除けば三種類の勢力が存在している。鋼鉄のハンマーを掲げる創造者(Builder)を崇拝する「ハンマー教団」、森の神Tricksterを守り神とする「異教徒」、そして両者の調和を尊ぶ「守護者(Keeper)」である。初代Thiefでは異教徒、Thief2ではハンマー教団を中心に展開してきた物語は、この第三作で重点をKeeperへと大きくシフトし、クライマックスを迎えた。
これまで、Keeperについて知られていたことは多くなかった。主人公のギャレットは元Keeperで、そのよしみで時々Keeperの手助けをしている、というぐらいの位置付けである。Tricksterが悪巧みをしたり、あるいはハンマー教団が怪しげなロボットを大量生産したりして街の平和を乱そうとするのに対して、Keeperは陰で策謀をめぐらす地味な存在に過ぎなかった。予言の書を解読するInterpreter、それを翻訳するTranslator、彼らの言葉に真剣に耳を傾けるKeeper幹部、その神秘主義的な雰囲気をシニカルに見つめるギャレット、という感じの構図だったわけだが、本作ではついに予言の書の秘密が明かされる。
暗黒の時代の到来を告げる予言、その随所に登場する「盗賊」、というわけでKeeperはまたもギャレットに助けを求めるのだが、ギャレットが予言の書に従って行動するにつれて、実はKeeper内部に裏切り者が現れ、その裏切り者によって暗黒時代が到来することが明かされる。やがて、Interpreterが暗殺されるに及び、予言は真実味を増してきた。裏切り者探しが始まり、ギャレットも嫌疑をかけられ、自らの潔白を証明するために様々な闇を通り抜けていく……。
結論を言えば、完結編にふさわしい非常にスリリングなエンターテインメントに仕上がっており、最後まで飽きることなく、一気にプレイすることができた。特筆すべきはエンディングだろう。鳥肌が立った。Thiefシリーズはギャレットの数々の名言で知られているが、本作も期待を裏切らず、本当にスタイリッシュに仕上がっていた。

本当の姿

T:DSを制作したION STORM社の評判はいまひとつであった。であった、というのは、この会社がもう倒産してしまったからである。特に、Deus Exというゲーム史に残る傑作の続編を引き受けながら、鳴り物入りで発売されたInvisible Warがパッとしない作品に終わってしまったのがユーザーの批判の大部分を占めるのではなかろうか。このT:DSも、Looking Glass倒産後に第三作を作ることに決まった時には複雑な反応があり、ゲーム発売後も中途半端な評価を受けるに留まっている。特に評判が悪いのは、おせじにも快適とはいえないグラフィックスと、コンソールを念頭に製作されたであろう狭いマップである。実際、T:DSを買った当時の私もあまりのグラフィックの重さとマップの狭さに、2時間とプレイを続けることができなかった。
ところが、全体的にマシンパワーを上げ、グラフィックボードを新調した今回のプレイでは印象ががらりと変わった。特に、グラフィックのシャープさには目を見張るものがある。1600*1200でプレイすると、石造りの街並みや、人の影を揺らすたいまつの炎の美しさに驚く。さらに、テクスチャーの精度を上げるMODを使うと一層感動が増す。いや〜、これがThiefの本当の姿なんですな。Third Person Viewの導入でギャレット本人を見ることができるようになったのも、プレイの幅を広げるのに貢献している。しかも、マシンが速いのでロード時間が気にならない。
というわけで、ION STORMの失敗の原因はちょっと先端を走りすぎたことだった、というのが良く分かった。

ステルスは不必要か?

従来のThiefからの大きな変更点としては、街の店で盗品を売ったり装備を買い揃えたりする方式が導入されたことが真っ先に挙げられよう。これまでは、ミッションの最初に、前回のミッションでの獲得金額に合わせて装備を買う方式が採用されていた。このため、前作までギャレットはミッションのたびに一から装備を揃えていたのだが、本作では前のミッションで使った装備を蓄えておくことができる。この結果、私のプレースタイルも変わった。次のミッションに矢やポーションを残しておくために節約を図るようになった。おかげで、最終ステージは山のような装備を豪勢に与えられ、心ゆくまで好き放題に荒らしまわることが可能であった。逆に、序盤は水矢を節約するために火を消さずに進んだりしたので、なかなかキツかった。このあたりは賛否両論だろう。
武器の変化としては、まずフラッシュボムの弱体化が挙げられる。これまでは、フラッシュボムを投げつければ敵は目がくらむので、ブラックジャックで一撃で気絶させることが可能だった。ところが、本作ではこの手が使えない。むしろ、眩惑状態の敵にダメージを与えると、視界が回復してしまうのだ。従って、フラッシュボムの使い方としては、投げつけて足止めをした後、速攻で逃げて暗闇に隠れる、という感じになる。
また、火矢が本作ではきちんと放物線を描いて飛ぶ。前作まではロケットでも付いているのか、敵に向かって一直線に飛んで行く変な武器だったのが、ややまともになったということか。この火矢には非常にお世話になった。何しろ各マップが狭く敵の数が少ないので、後半は火矢で瞬殺を繰り返していた。
あとは、ロープ矢が廃止され、代わりに壁登りグローブが登場した。しかし、これは余り使い心地が良くない。登れる壁は妙に平らなのですぐに分かるし、あまり登場する場面も多くなかった。隠れるのに使いやすいというわけでもなかった。
これらの変化の結果として何が起きるかというと、ステルスを使う必要性が大きく低下したということである。特に、フラッシュボムの弱体化でブラックジャックを使う回数が減った。マップが狭いので追いかけられてもすぐ逃げ切れる、という最大の要因を置いておくとしても、フラッシュボムは店でたくさん手に入るので、見つかったらフラッシュボムを投げて逃走する、見つかりそうになったら弓矢で不意打ちして瞬殺する、などあんまりステルスっぽくない方法でどんどん進むことができた。このあたりも賛否両論がありうるテーマである。

結論

以上でレビューを終える。マシンパワーが上がったおかげで、かなり製作者のイメージしたような作品に近いものをプレイすることができたせいか分からないが、私の中でThief: Deadly Shadowsの評価は高い。ただ、こういうマシンパワーに依存するゲームが一般受けするかというと、そういうものではなかろう。時間があったらDeus Ex: Invisible Warの方も試してみたいと思う。

*1:UCLA政治学者ではない。念のため。