Dreamfall: The Longest Journey

Guardianのすみか

The Longest Journeyは、ここ数年のADVの中でも最高の作品という呼び声も高い。その続編が、このDreamfallである。前作で主人公April Ryanが世界を救った後の時代を舞台に、SFとファンタジーを絶妙に融合させたストーリーが展開されている。

Dreamfallはアドベンチャーゲームと言えるのか

すでに多くのレビューサイトのスコアが出ているのを見ていると、Dreamfallの評価は割れている。素晴らしいストーリーを絶賛して高得点を付けるサイトもあれば、あまりにも簡単になってしまったパズルと、お世辞にも快適とは言えない戦闘シーンに辛口の評価を下しているサイトもある。例えば、大手サイトの中でもどちらかと言えば大衆受けするゲームに甘いIGNは、Gameplay 4.0、Lasting Appeal 3.0で合計7.4を付けた。
私自身も、若干複雑な気分だ。確かに、複雑なストーリーラインには多くの謎解き要素が含まれていて楽しめるし、情報技術によってネットワーク化された社会における秩序問題や、自由と安定の相克など、こういうタイプの舞台設定には欠かせない論点もきちんと押さえられている。しかし、ゲームの攻略そのものはあきれるほど簡単だった。たいていの場合には主人公が何をするべきかが明確になっており、頭を使うようなパズルもなかった。
前作のパズルはとにかく理不尽だった。運河に浮いている鉄板の上にパンを落とすと鳥が飛んできて、そのはずみで流れ出した鴨の風船についていた絆創膏をはがして手袋に貼ると映画館の配電盤を操作できるようになって、それでようやくストーリーが前に進んだのである。そのため、私などは攻略サイトなしでは全く前進することができなかったものだ。それにひきかえ、Dreamfallのパズルはひたすら簡略化されている。何か拾ったりするべき物が近くにあれば、そこに自動的にカーソルが現れるので、必要なものを探してうろうろする必要がない。鍵空けパズルも2パターンほどあるが、苦労したプレイヤーはほとんどいないのではないだろうか。
しかも、ADVには似つかわしくない戦闘シーンが新たに加えられていて、若干のアクションが必要とされるようになっている。とはいえ、その水準は低い。基本的には剣で斬り合ったり、素手で殴り合ったりするのだが、数年前ぐらいの操作感覚である。攻撃は同じ軸線上にいないと当たらないので、相手が攻撃モーションに入った瞬間にちょっと横に移動するだけで縦斬りだろうが横斬りだろうが避けることができる*1。また、強攻撃が弱攻撃よりも遅い代わりにガードできないので、相手がガードに入った時に強攻撃を出せば確実に相手を倒せてしまう。何しろ、相手は全く回避行動を取らないのである。おそらく、最初は回避行動を取るように設計されていたのだろうが、あまりにも難易度が上がることに気付いて途中から猪突猛進型に変えたのだろう。おかげで、逆に戦闘の難易度が低すぎる。これでは、新たな要素を加えた意味が分からない。
これらの点からすると、DreamfallはThe Longest Journeyとは全く異なるコンセプトに立脚したゲームだと言える。TLJが正統派のADVだったとすれば、Dreamfallは一本の映画を観ているような感覚でプレイした方が楽しめるのかもしれない。

すばらしい世界

という感じでゲームデザインについては私も辛口にならざるを得ないのだが、ストーリーの方は楽しめた。特に、主人公のZoe Castilloは実に魅力的である。豊かな社会でやる気を失い、大学をドロップアウトしてぼんやりと毎日を送っている彼女が、何かの事件に巻き込まれた恋人を追いかけるうちに少しずつ変わっていく。彼女を取り巻くキャラクターたちもポイントを押さえている。世界を救うのに疲れ、全ての理想に幻滅してAzadiへの復讐を誓うApril。そのAzadiの神を純粋に信じ、その教えを世界に広めるべくAprilの後を追う暗殺者Kian。高みの見物を決め込んでいるふりをしながら、実はAprilとZoeのことを気に懸ける鳥Crow。やがてArcadiaでは戦争が始まり、Starkでは世界を結ぶ電子ネットワークに崩壊の危機が訪れ、それぞれのキャラクターたちは自らの抗うことのできない運命へと巻き込まれていく。
人物だけでなく、社会の方もなかなか良い。前作と同じく、物語は未来社会Starkと魔法の世界Arcadiaの間で展開される。Starkのディストピア的な要素が前作に比べて抑制されていて、現代政治学の観点からすると妥当な描き方だと感じた。というのは、あからさまな不正義が横行するような社会では、必ずその不正義を正すべく行動する個人や集団が存在するものだからである。TLJでは、下層民の入ることのできない都市区画があったり、植民星に送り込まれる奴隷がいたり、それでいて社会は妙に安定していたり、と妙にB級SFっぽさが残っていたのだが、今回は精神安定薬物と仮想ネットワークの組み合わせによる大企業のソフトな支配が問題になっていて、社会の不正にそこまで苦しんでいる人はいない。豊かな社会で、みんな表面上は幸せそうに生きている。このあたり、ハクスリーの『すばらしい新世界』以来の論点だろう。
もちろん、Arcadiaも悪くない。魔法の世界だったArcadiaに科学技術が持ち込まれ、蒸気の力で世界が変わろうとしている。異教を信奉し、魔法を操る魔女は、すぐに衛兵に捕らえられて牢獄に叩き込まれてしまう。その牢獄はガチガチの官僚主義で、必要な書類がない限り絶対に囚人を逃がすことはない。捕まったZoeを見たKianは彼女を解放するよう所長に言うが、所長は聞く耳をもたない。「だから女性が権力を握るべきなのだ」とつぶやくKian。ちなみに、Azadiを統治するのはThe Sixと呼ばれる女性神官たちである。想像するに、文民のポストは全て女性なのではないだろうか。こういう感じで男性を官僚主義と結び付ける解釈は聞いたことがないが、よく考えればジェンダーを官僚制分析に持ち込むことも論理的には可能なはずである。ちょっと調べてみることにしよう。

結論

というわけで、FUNCOMはすぐに続編の製作に取り掛かるべきである。どうやら、Dreamfallは3部作の中篇という位置付けらしいのだが、私は続きが気になって仕方がない。ただし、日本を舞台にするのは今回限りにして欲しいというのが正直な感想だ。Dreamfallにはかなりの数の中国系クリエイターが携わっているようなのだが、やはり日本の描き方はちょっと変だ。HokkaidoのYamashiro StationにWATIcorp.の本社を置いたりするあたりは笑って見逃すしかないのだろうか。

*1:はっきり言えば、軸ずらしで横切りを避けることができるのは現在のゲーム業界の水準ではNGだと思われる。