Hitman: Blood Money

高級住宅街にヒットマン

黒いスーツに身を包んだスキンヘッドの暗殺者「47」の活躍も、これで4作目である。私はこれまでの3作品は全て少しずつプレイしたまま積んでいたのだが、このBMは割と最後まで集中できた。

暗殺と殺戮

ヒットマンの基本は暗殺である。誰にも見られることなく、音をたてずに、ターゲットのギャングや政府要人だけを殺す。このフローをうまくこなすことでスコアが上昇し、追加報酬や新しい武器を与えられる。そのためには、変装してターゲットの近くまで忍び寄り、付近に誰もいなくなった隙を見計らってワイヤーで首を絞めるのが一番だ。
とはいえ、その気になればヒットマンは殺戮に走ることもできる。ライフルをフルオートにして、視界に映る動くものを片っ端からなぎ倒そうと思えば、それも可能だ。この場合、ヒットマンの所属する組織が目撃者の口封じをしたりするために報酬がマイナスされることになって、得点ランクも下がることになる。
ゲームの中では、この「暗殺」と「殺戮」のバランスを取る必要が出てくる。というのは、仮に徹底して暗殺のみに励んだとしても、ミッションによってはターゲットが人ごみの真ん中から動かない場合もあるので、そのようなケースでは目撃されることを覚悟で狙撃しなければならない。また、うっかり首を絞めている最中に通行人や警官に目撃された場合にも、彼らが他人に助けを求める前に殺しておかないと、応援が続々やってきて、完全に殺戮モードに突入してしまうこともある。もちろん、うまくやれば殺戮の要素を最小限に抑えて暗殺に励むこともできるのだが、そのあたりはNPCの行動に依存するので運の要素も多分に含まれている。
このヒットマンシリーズの面白いところは、一見するとガッチリ警護されているターゲットも、何らかの手段で暗殺が可能になっていることだろう。例えば、通常は近づくことのできない船長を殺すために、船長の大好きなケーキに毒を盛ることができる。あるいは、ガードマンのびっしり張り付いたスイートルームに泊まっている科学者を、向かいの建物の窓から狙撃することができる。さらに、パーティー会場で時たまピアノを弾きに来る主賓を暗殺するためには、ピアノの真上にあるシャンデリアを吊り下げている屋根裏のウィンチを爆破すればよい。

仕掛けから攻略法を推測する

とは言っても、暗殺の方法はそう何通りもあるわけではない。そこで、多くのプレイヤーはゲーム内の仕掛けを観察して、デベロッパー側の用意したルートを推測しながら暗殺の計画を立てることになるだろう。
まず、直方体の冷蔵庫や大型のゴミ箱を見かけたら要注意である。なぜならば、これらの場所には死体を隠すことができるからだ。死体を隠すことができるということは、その死体から服を奪って変装することができるということを指している。実際、47の初期装備のスーツでは通り抜けることのできないポイントの手前には、たいてい隠れた場所にこれらの冷蔵庫やゴミ箱が置いてあって、一定の間隔でウェイターやらガードマンやらが独りで巡回にやってくる。明らかに、絞殺してくれと言わんばかりのカモだが、彼らの服を奪って変装すれば、警備の厳重な屋敷やビルに潜入できるのだ。
さらに、キッチンなどで食べ物を見つけたら、その行き先をじっくりと見定めるべきだろう。ケーキやシャンパンがターゲットに届けられる場合には、あらかじめ毒を盛っておけばよい。そういう攻略法が必要なケースでは、情報屋に教えてもらうこともできる。
あとは、天井からぶら下がっているものがある場合には、それを吊っているウィンチや柱に爆弾を仕掛けるチャンスだ。どのステージにも、そういった爆弾を仕掛けることのできるポイントがいくつか存在しており、そのうちの一つか二つはターゲットを倒す役に立つ。
個人的には、俳優を暗殺するミッションで、劇中の小道具のピストルを本物とすり替える場面は良くできていたと思う。掃除夫に変装して、休み時間中に助演の俳優の控え室に忍び込み、ピストルをすり替えると、休み明けのリハーサルで助演の俳優がターゲットを撃ち殺してしまう。俳優の死亡を知って慌ててステージに駆け下りてくる外交官の上にシャンデリアが落下して、ミッション完了である。この方法に気付くまで色々と試したが、全てが最初から計画通りに行った時の充実感はひとしおだった。

暗殺よりも殺戮の方が易しい

こんな具合に、色々と楽しい仕掛けの用意されているHM:BMだが、暗殺を初めからあきらめて殺戮に走ると、逆にあっけないほど楽に攻略が可能になってしまうので、拍子抜けすることになるだろう。警官やガードマンを攻撃すると、残りの武装した敵はダッシュで集まってくる。そこには何のチームプレイもなく、ただひたすら仲間の死体に駆け寄ってくるのだ。プレイヤーは扉の陰かどこかに隠れて、近づいてくる敵を一人一人打ち倒していけば、あっという間に死体の山が積みあがり、全てが終わった暁にはミッション完了寸前になっているだろう。
特に、装備の強くなる後半にはこの戦法がありえないほど効いてくる。私の場合、ホワイトハウスの入り口の脇でしゃがんでM4を連射しているだけで敵の3分の1が片付いてしまい、残りのシークレットサービスも建物内の階段の踊り場で待ち伏せしていたら余裕で片付いてしまった。ちゃんと訓練したのかと言いたくなるようなしょぼい警備である。そんなことで副大統領を守れると思っているのかお前ら。
このあたりは、ステルス系のゲームに共通する欠点かもしれない。ステルスで行けるぐらいにはAIに隙が必要なのだが、かといって隙がありすぎると、FPS的に正面から突っ込んだ時に弱すぎる。この欠点を補うためには、敵と打ち合いになると警報が鳴って、警報が一定以上のレベルになるとゲームオーバーになるSplinter Cellや、本当に正面から突っ込むと負けてしまうThiefのように、いくつかデザインの仕方はあるのだが、Hitmanの場合には端的に敵の隙を大きめに設定して、あとはランクを表示することでプレイヤーが暗殺型のプレイを行なうようなインセンティブを付与するという方式を採用している。
この方法がうまくいくためには、暗殺する仕掛けの面白さや、ランキング上昇のメリットがなくてはならない。前者の方は、少なくともBMに関して言えば最後の最後まで冴えていた。後者の方は、若干疑問がある。というのは、近接戦用の拳銃のSilverballerは十分強力であり、これを段階的にアップグレードするだけで最後まで武器には困らない。それゆえ、いずれプレイヤーは金余り状況に陥る。少なくとも私の場合はそうだったので、最後の数ステージはランキングをあまり気にせずにターゲットを護衛もろとも爆破したりしていた。

結論

プロットについてはあまり書かなかったのだが、最後に一言だけ。クローンの是非を論じるのはいいのだが、その理由を軍事的なものに一元化しているのは頂けない。現在のアメリカ政治を見ても分かるとおり、クローンは宗教的な要素もからむ争点なのだから、宗教カルトも登場させて欲しかった。とはいえ、そうすると宗教団体からクレームが入るから仕方がないのだろうが。
それ以外の点については無難にまとめてられていて、好感が持てる。手堅くHitmanの伝統を継承したゲームだという印象を持った。