F.E.A.R.

corlagon2005-10-21

FPSの業界では、たまに従来のスタンダードを完全に時代遅れにしてしまうゲームが登場する。DOOMの築いたFPSの世界はHALF-LIFEによって完全に乗り越えられてしまった。昨年、HALF-LIFE2Far CryとDOOM3に続いて発売されたことで、さらにFPSの敷居は上がった。そんな中で今年最大の期待作だったのがこのF.E.A.R.だ。

NOLFとF.E.A.R.と最近のFPS

Monolithの代表作のNo One Lives ForeverがHLにインスパイアされていたのはよく知られている話だ。そこで、まず気になるのがこのFEARと最近の大型FPSとの位置関係である。ざっと一週コンプリートした段階で気付いたことを挙げていくと:

  • とにかく暗い。ここがDOOM3との最大の類似点だ。しかし、FEARではちゃんと武器を持ったままライトをつけることができる。23世紀の火星では銃と懐中電灯を同時に持つことができなかったとは大違いだ。それから、突然電気が消えたりすることも少ない。電気が消えるやいなや敵が突然降って湧いたように後ろから火の玉を投げてきたりすることもない。敵は無線で「ポイント12の連絡が途絶えたぞ」「チェックしてきます」「侵入者だ!」「目標発見!」「応援をよこせ!今すぐにだ!」などなど割とにぎやかにしゃべってるので、奇襲を受けてうろたえることなどほとんどないのではないだろうか。
  • 屋内中心のステージ構成もDOOM3とパラレル。かなりグラフィックは重くなっているが、そのぶん厚みが感じられて良い。銃でコンクリート壁を撃つと立体的な弾痕が残ったりするあたりは、当初DOOM3に期待されていたことを部分的に実現したのではないだろうか。こんな仕様はHL2Far Cryでは考えられなかった。
  • 走りながら撃つと照準が広がるので、カバーを探してleanしながら相手の隙をうかがうアクションが中心になる。このタイプはFar Cryと近い。ただ、FEARのAIは段違いに優れている。とにかく良く走るし、手すりを乗り越えるわ、窓を割って部屋に飛び込むわで敵を正確に捉えるのは至難の業だ。
  • ここで効くのがSlow Mo。時間の速度を下げるのはMax PayneBullet Time仕様に似ているという感想をウェブ上ではよく見かけるが、操作感覚としてはProject: Snowblindに近いのではないか。Max Payneの場合、大半のBullet Timeは横っ飛びの最中に発動されるのに対して、FEARの場合には走りながら立ち止まってHeadshotというパターンが主体になるので。

というわけで、NOLFがHLを意識したほどには、FEARはHL2を意識していない。むしろ見かけの感触としてはDOOM3に近いのであり、屋内の近接戦闘が中心となっている点からもHL2との親近性はあまりない。

ホラーとしてのFEAR

とにかくFEARは怖い。サウンドも怖いし、血が吹き出たり、首が飛んだり、Penetratorで敵が串刺しになったりと残酷な場面は枚挙に暇がない。この点、おどろおどろしいサウンドの割に死体が消えたりしてたDOOMよりもホラー物としてははるかに成功している。ここまで見事にFPSとホラーをミックスしたのはUndying以来じゃないか。
ストーリーも割としっかりしていた。デザイナーは「リング」に影響を受けたらしいのだが、やたらフラッシュバックを多用したり、ひたひたと足音が迫ってきたり、髪の毛が黒かったり、下から這い上がってきたり、そのあたりのAlmaの描写が良いなあ。いやこれは女の子はプレイできないでしょ。まあFPSプレイしている女性は少ないと思うんだが。

AIが凄い

いやもう、これは実際に体験して損はないレベルに達していると思う。素晴らしいと絶賛されたHALF-LIFEのAIを確実に超えてますよこれは。上で書いたことと矛盾するかもしれないが、物陰に隠れていると敵が手榴弾を投げ込んできたりするので、正直な話あんまりのんびりと戦っていると瞬く間にミンチにされてしまう。突っ込むとあっという間に前後左右から囲まれて袋にされるし。とにかく敵の動きが活発で、常にこちらの裏をかこうとする。音に対しては比較的鈍感なようなのだが、その分いったん発見されると鬼のようなチームワークでプレイヤーに迫ってくる。援護射撃をする奴と突撃する奴がチームを組んでいると本当に手に負えない。難易度を上げたければ、Slow Moを使わないことでしょう。FEARは本物のAIと戦うことのできる数少ないFPSに仕上がっている。

繰り返し

とここまで書くとFEARは完全無欠な感じだが、そんなことはない。確かにぐいぐい引き込まれる感じは受けるのだが、何だか物足りないのだ。その最大の理由は、あまりにも敵やステージにヴァリエーションが少ないことだろう。戦ってる感触としてはクローン兵・ATSガードマン・近接クローン兵の三種類しか識別できないし、こいつらと延々と同じようなパターンで戦闘を繰り返すことになる。舞台も大体は薄暗い建物の中で、部屋と廊下の間を行ったり来たりするだけだ。となると、戦闘の爽快さに飽きが来るとリプレイ価値に乏しいゲームといわざるを得ないような気もする。プレイ時間は10時間強だったし。HL2みたいに早解きが効くようなゲームでもないしな。

FEARはどれぐらい面白いのか?(10月22日11:27追記)

これも個人的な感想にすぎないが、HALF-LIFE2F.E.A.R.Far Cry>Project Snowblind>DOOM3という感じだろうか。下2つはまあいいとして*1、上3つの間の評価は人によってバラバラだろうなあ。Far Cryより上な理由としては、オリジナル作品としてのストーリーラインの良さとAIあたりの要素を重視。HL2より下なのは、それでもHL2の方がストーリーが面白いこと、FEARがステージや敵の多様性に欠けたこと、全体として短いことなどか。まあとにかく、私にとってはかなり面白かった。

結論

昨年のFPS業界に生じた変化に比べると、FEARはそれほど革命的なゲームではない。しかし、FPSのメインであるべき戦闘を徹底的に磨き上げたのは素晴らしいの一言に尽きる。シングルFPSで戦術的に志向したのは本当に久しぶりだった。あとは、もう少しマシンの性能を要求しないデザインにできれば良かったのではないかと思う。現段階ではFEARはハイエンド以外のPCでプレイするには重すぎる気がするのだ。

*1:Snowblind入れたのはDOOM3がそれぐらいダメだったということを強調したいから。ゲームはグラフィックだけで評価されるべきではないはずだ。