Civilization IV

Nobleでクリア寸前

今回のCivの特徴はGamespotのレビューの冒頭にある以下の二点にほぼ尽きていると言ってよい。

  • 良い点:きわめて中毒性が高いため、睡眠時間が削られること。
  • 悪い点:きわめて中毒性が高いため、睡眠時間が削られること。

これまで睡眠時間(と研究時間)を削ってゲームに打ち込んできたことについては私にも自負があるのだが、今回のCivにも例によって多くの時間が費やされた。これからも、しばらくはCiv4に割く時間が増えるのではないかと思われる。

徹底した社会システム論の中の多元性

Civシリーズのスケールの大きさは、他の多くのSLGを寄せ付けない。何しろプレイヤーは文明なのだ。政治体制が変わり、気候が変動し、宗教が広まって、核兵器が発明されようとも、プレイヤーは文明である。革命するタイミングまで自分で選ぶことができるのだ。社会の発展には個々の人間の特性よりも、その総体としての社会が重要であり、そのシステムに内在する価値に従って歴史が展開されてゆく。いや〜、すごい文明観。しかも一つの文明が勝つとあとは負けという強烈なゼロサム性が存在しているし。
この点に関して、これまでプレーヤーがいじることのできるシステム的な要素として政治体制と革命のウェイトが大きかったのに対し、今回のCiv4ではCivicという要素が登場している。これにより、政治体制にくっついてきた様々な特性を分野別に分解して組み合わせることを可能にしている。たとえば、これまでのゲームでは共産主義を発明すると一定の経済発展の制約と引き換えに戦争時の士気の低下がなくなるといった特典が得られたわけだが、Civ4ではこれをPolice StateとState Propertyの2つに分解している。しかも、共産主義そのものから得られるのは後者だけである。
このように従来の政治体制を分解可能にしたことはCiv4のゲームデザインを学術的に見ても優れたものにしている。というのは、少なくともここ数年の社会科学の世界において、政治体制と経済体制や文化の組み合わせは従来考えられてきたよりもはるかに多様だという事実が明らかになってきているからだ。同じ民主主義国でも、政党選択の可能な自由民主主義国と一党支配の権威主義全体主義国がある。自由民主主義国の内部には、主要産業の国有化と重厚な社会福祉を特徴とする経済体制と、産業の自由競争と小さな政府を特徴とする経済体制が存在している。さらに、経済発展はキリスト教圏の枠を超えて日本ばかりか東アジア全体に波及してきた。
まあ何が言いたいかというと、社会のシステムには「民主主義」とか「権威主義」とかのラベルを超えた様々な次元の構成要素があって、その組み合わせを可能にした今回の作品はその様々な要素のトレードオフをモデル化することにある程度まで成功しているということだ。ちょっと理論的に考えにくい組み合わせ(Universal SufferageとSlaveryとか)も可能になっていたり、Free MarketとEnvironmentalismが択一の関係にあったり、若干首を傾げる所もあるが、色々試すのは楽しいので皆さんやってみてください。

宗教の重要性

人間社会における宗教の重要性についてのデュルケームの指摘を待つまでもなく、宗教は社会を統合し、それを方向付ける作用を持っている。同時多発テロで妙にイスラムがクローズアップされていたりもするが、ユダヤ教キリスト教(およびその内部の諸宗派)も他の宗教との争いを繰り返しながら発展してきた。その紛争作用の側面は、統合作用の側面と表裏一体である。
という話はひとまず置いておこう。Civ4でアドバンテージを得るためには、宗教を創始することが不可欠だ。宗教は市民を幸福にして、文化を発展させる。文化は国境線を拡張して、新たな土地と資源へのアクセスを可能にする。同時に、他の文明を自国の宗教に改宗させることに成功すれば、友好関係が大幅に促進される。
逆に違う宗教を信じている文明はそれだけで敵対してくるから始末に終えない。社会的な紛争は土地の不足によって生じるものだというのがこれまでのCivの考え方だったのだが*1、Civ4では宗教という要素が入ると土地が余ってても勝手に敵対者を見つけ出して絶滅させようとするのだから、不思議なものだ*2。というわけで宗教を先に発見して周りの国に広めるのが重要な戦略となる。
宗教に合わせて宣教師とかを作ったりもできるのだが、この宗教の伝播パターンの認識には文化的なバイアスが感じられる。日本のように、大陸から自発的に宗教や技術を導入した社会もあるのだから、そのへんも考慮できるようなゲームデザインにしてもいいのではないか。宗教の参加になるのと引き換えに技術を分けてもらえるとか。

集権的な技術開発

技術発展の政治経済学というものがある。それによると、この世界には国家主導で技術発展を行なう国と、民間主導で技術発展を行なう国が存在するというのだ。驚くべきことに、少なくとも基礎研究において、日本は民間主導であるのに対し、アメリカは国家主導として分類されているのである*3。さしあたり、ここではCivシリーズが技術発展に関してかなり厳格な開発主義を採用していることを指摘しておきたい。イノヴェーションは必ずしも自由放任の市場経済を通じて行なわれるものではないのである。こういう発想がちゃんとアメリカで出てくるのには驚くなあ。
さて、Civ4の技術開発の特徴は、技術発展が従来のように単線的ではないことである。下位の技術をいくつか飛ばしても、上に進んでいくことができる。論理的には、車輪を知らないくせに鉄道を知っている(ゆえに道路を作れないのに鉄道を作れる)文明も存在することになる。
このデザインが持った効果として特に挙げることができるのは、ゲームの高速化と外交戦略の重要性の増大だ。まず前者について言えば、技術発展を自国の状況に合わせて最適化することできるので、必要のない技術は開発しない(水のないマップでは航海術は必要ない)ことで開発期間の短縮が可能になる。高めの難易度のゲームでは、この種の戦略は必須だ。後者については、他国との技術の交換が不可欠となる。いずれにせよ、「相手の出方に合わせてこちらの出方を決める」という戦略の重要性が増したと言えるだろう。

止まらないメガプロジェクト

あと2ターンという所で他の文明にピラミッド建設で先を越されてしまったら、どうすれば良いのだろうか。これまでのCivでは、ピラミッドにつぎ込んでいた資材を空中庭園に切り替えることで七不思議の建設を継続することができた。ところが、今回のCivではそれができない。その代わり、「あなたは○○の建設を続行することができない」というメッセージが表示されて、それまで投入された資材が換金されて戻ってくる。というわけで、不思議の建設に出遅れた文明は世知辛い目に遭うわけだ。その代わり、市民を酷使したり大量の金を注ぎ込んだりという、従来は普通の建物にだけ可能だったオプションが可能になって、ここでもCiv4の新たな要素がゲーム性を大きく変えている。ちなみに、例によって使える不思議と使えない不思議が点在しているので、注意が必要である。序盤のストーンヘンジとかオラクルはゲームの行方を決定するぐらい重要だが、ハリウッドとかブロードウェイみたいな終盤の不思議は正直なところ何の役に立つのか良く分からない。

偉大な人々

Great Personは都市から生まれる。都市と農村は異なる類型の人間を生み出すというのは昔からある考え方だが、Civ4で追加されたこの新要素は、都市が文明の発展に不可欠であるという見方を強力に支持するものである。科学者、芸術家、建築家、そういう偉大な人が生まれると技術が発展したり文化レベルが上がったりする。技術発展への利用価値は言うまでもないが、資源消費の大きい不思議(宇宙エレベーターなど)を建築家を使って1ターンで完成させたり、立てたばかりの都市の文化レベルをいきなり+4000して隣接都市を飲み込んだり、何かと偉大な人々の使い勝手は良い。ちなみに偉大な人が何人か集まると「黄金時代」がスタートするのだが、これって全然役に立たないのだよね。8ターンの間、生産力がアップってあんた。まあ終盤の宇宙開発レースで核を使わずに勝つにはこれ。

ユニットとレベル

書き続けてもキリがないので、Civ4の大きな特徴のうちの最後のものとしてユニットがレベルアップするという点に触れて終わりにしておきたい。今回、ユニットは一定の経験血を積むとレベルアップするのだが、その際にレベルアップの仕方を好きなようにカスタマイズできる。単純に戦力が上昇するものもあれば、戦力の回復速度が上がったり、市街戦に強くなったりする。個人的なオススメは、序盤の戦士のWoodsmanレベル2。なんと森林の移動速度が倍になるのだ。メカニズムはよく分からないが、ある程度温暖なマップならこれでスカウトの代わりが務まるので、わざわざHuntingを学習する必要がない。

結論

いや〜。Firaxisすげえ。Pirates!の時にも思ったのだが、どうすればこんなに密度の濃いゲームを作れるのだろうか。昔ながらのターン制SLGなのに。シドマイヤーがすごいのか、彼のチームがすごいのか定かではないのだが、Civ4はシリーズの成功を決定付ける作品として今後数年に渡って記憶されることだろう。ちょっと欠点が見当たらないぞこれ。

*1:政治思想の世界ではジョン・ロック

*2:こっちの考え方はヒュームか?ちょっと自信がないが。

*3:ただし、全体で見ても日本は先進国中で最も小さな政府の一つである。昨今の日本の政策ディスコースは壮大な事実誤認が存在している。